『若恋』榊の恋【完】
「いいですね、温泉」
「ええ、静かなところでしたよ。料理も美味しかったし、十分に涼んできました」
さりげなくその場を通り過ぎようとして。
「榊さん」
声で引き止められて一也を見た。
「どうしました。一也」
「―――俺は」
言わなくてもその先に言いたいことなどわかっている。
今まで気づかない振りをしていただけだ。
「ひかるは渡しませんよ」
「―――っ、」
目を見開いた一也が言葉をなくしている。
「ひかるはわたしのものです。誰にも渡しません」
一也はじっとこっちを見てそれから諦めたように小さく笑った。
「気づいてたんですか?」
「少し前からですよ。気づきたくなかったと言う気持ちも強いですけどね」
「榊さんはひかるちゃんを」
「一也が想像してる通りですよ。ひかるはわたしのものです」
「、」