『若恋』榊の恋【完】
一線を越えるか。越えないか。
越えたのか、越えられなかったのか。
返事は「越えた」だ。
何も隠すこともない。
「ひかるをもらいましたよ」
「…だと、思いました。さっき、ひかるちゃんの顔を見て」
がっかりしたと言うより一也はさっぱりした表情を浮かべた。
「ひかるちゃんに告白してもいいですか?」
諦めるために。と一也は言った。
「それは一也の自由です。ただし…ひかるを悩ませる発言は許しませんよ」
「わかってます。ひかるちゃんを悩ませたりするようなことは言いませんから」
「そうですか。あ、一也」
ひかるの元へ行こうとしていた一也を、逆に呼び止めたのは自分の方だ。
なぜか呼び止めなければ消えてしまいそうな気がした。
「何ですか?」
「いえ、何でもないです」
去っていく後ろ姿を見送り、ふと不吉な予感に捕らわれた。
―――予感
一也の身に何もなければいいが。
そう思った。