『若恋』榊の恋【完】
ひかるを追って、エレベーター前の自販機に着くと、姿がない。
ひかる?
薄暗くなった周りを見渡して、隅に踞るひかるの姿を見つけた。
―――ひかる
声を殺して泣いている。
その小さな背中を後ろからギュッと抱き締める。
「…一也は、笑ってましたよ」
「…笑ってた?」
そう。
意識を手放す寸前に、一也はホッとしたように口元に微かに笑みを浮かべた。
ひかるが無事だと知ってホッとしていた。
守れたことを満足していたんだとそう思った。
「だから。一也は大丈夫です」
車と相撲を取ったくらいであっさり負けたりはしない。
風邪もひかない丈夫な体をしている。
「一也は大丈夫」
「…うん」
ひかるが泣きしゃくりあげながら答え顔をあげた。
「一也は柔ではありませんよ」
「うん」