『若恋』榊の恋【完】



ひかるの髪を撫でて、震える細い肩を抱き締める。

キスをして、耳元で同じ言葉を繰り返し。

ひかるの壊れそうな心を抱き締める。




「今だけは泣いていいですよ」

後は―――笑って。





すがり付いて涙を流すひかるを抱き締める。


「一也は笑ってたので…」


意識を手放してしまう瞬間、ひかるの無事を確かめたから笑ったんだ。

ただひとすじにひかるの無事を願った。





「…ひっく、榊さん」

「なんですか、ひかる」

「…今だけ…泣かせて」

「…そうですね」




失うかもしれないものはとてつもなく大きい。


「…一也さん、…死なないで」

―――お願い。



暗くなった廊下の隅で声を必死で殺して泣くひかるを抱き締める。


「ひっく。…一也さん」

「ひかる」



次々に溢れてくる涙をくちづけで拭う。



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