『若恋』榊の恋【完】
「家族の方ですか?」
「はい」
若が躊躇せずに答え、医師の前に進み出る。
「先生、一也は?」
ドクン。
心臓が音を立てて騒ぐ。
聞いていいのか。
耳を塞いで聞かないほうがいいのか。
一也が助かるのか。
助からないのか。
この耳で聞くのが怖かった。
「さきほど意識が戻りました。
レントゲン検査では骨折はなく、全身打撲と左足首の捻挫。それと側頭葉の裂傷…」
「…意識が…戻った」
ガクン
ひかるの膝が折れた。
崩れる体を支えて抱き取りしっかり胸の中に納める。
医師の言葉はもう耳に入らなかった。
一也の意識が戻った。
命が助かっただけでもう何もいらない。
「よかった」
若が医師の話に頷いている。
一也が助かった。
その事実だけがすべてだった。
「ひかる。一也は助かりましたね」
「うん」
「本当によかった」
本当によかった。