『若恋』榊の恋【完】
「…榊さん?」
「なんでもないんです」
「でも…」
腕の中で戸惑いひかるが顔を上げた。
若やりおさん、仁がいるのにと、ひかるを腕の中に閉じ込めた自分がおかしかった。
「仁、行くぞ」
「若?」
「いいから、行くぞ」
若が驚きもせずに歩き出し、そのままりおさんと仁を引き連れて病院を出ていく。
若がどう思ったのかわからないが、気をきかせてくれたことだけはわかった。
「ひかる」
腕の中に閉じ込めたひかるはじっと見上げてくる。
「何かあったの?」
「…何も」
「でも、何か変だよ?」
「そうですか?」
「うん。何かあったの?」
一也がひかるに向けた熱い視線を思い出す。
ひかるに諦めるために告白をしてくると話した、あのうぐいすの宿から帰った朝はどうなったのかその後の話しは知らなかった。
知る必要がないと思ってた。