『若恋』榊の恋【完】
だけど。
一也がひかるを好きですと告げて諦めると言ってなかったとしたら?
―――もしかしたら
ひかるを諦めることはできない?
一也の気持ちをはっきりと知ったら何も言えなかった。
「この間、一也が何かひかるに…」
言いかけてやめた。
ひかるに一也の思いを話してどうなるというのだろう?
混乱させるだけではないか。
「え?なに?榊さん?」
ひかるはくりくりとした眼を向ける。
「いえ。何でもないです」
「変な…榊さん」
首を傾げる。
腕を解いてひかると並んで歩き、病院から外に出ると仁がクラクションを鳴らして車を脇に停めた。
「榊、帰るぞ」
「はい」
若がウインドウを下げた。
ふたり乗り込むと車は滑るように走りだした。