『若恋』榊の恋【完】
でもひとりで抱えるにはもう限界だ。
逃げることが敵わないなら受け止めて前に進むしかない。
逃げてまた悪夢を繰り返すより前を向いて生きていければいい。
「りおさんと同じ名前でした。わたしはりおさんに妹を重ねて見てたのかもしれません」
あの夏の日に失ったものは取り返せないけれど、取り返せないと知っているからこそ、もう過去に捕らわれたままでいてはいけない。
ふわ。
―――りおさん?
おしぼりで顔を隠している自分の背中を包み込んでくれている温かさがあった。
「―――榊さん」
鈴のような声と自分を包むりおさんの鼓動が伝う。
「榊さんはその妹さんが大事だったんだね」
黙ってされるがままに包まれていると本当に妹に包まれているような気がした。