『若恋』榊の恋【完】



奇妙な空気が流れて若佐先生の口元が笑ったように見えた。


「先生?」

「あ、いや何でもない」


先生はすぐに笑いを引っ込めた。


また以前のような女生徒の憧れだった優しい眼差しで見つめる。


「先生はなんで病院に…どこか悪いんですか?」


ここは病院で。
目の前の先生はかなり痩せている。
明らかに病気に見えた。


「病気?ああ、病気かもしれないね。腕を折られてから頭がおかしくなってる」

「腕?怪我したんですか?」

驚いた。

先生が怪我してたなんて知らなかった。
慣れない仕事して誤ってどこかにぶつけたのかな?



「榊さんにね。世話になったんだよ」



「……え?榊さん?」




前触れもなく榊さんの名前が出てきて、首を傾げるわたしの脇腹に先生はいきなり何かを突き付けた。



「先生?」

「黙ってそのまま真っ直ぐに歩け」



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