『若恋』榊の恋【完】
ここから連れ出されたら、拓也さんが待っている所には戻れない。
「先生、どこへ…?」
「いいから歩け」
押し出されるようにナイフで行けと突き付けられる。
ギイ。
ドアを開けるとまた薄暗い部屋があった。
「…違う」
「何が違う?」
「若佐先生はこんなことしない」
「いいから歩け」
わたしを追い詰めて何もない空間を歩かせてその奥のドアのノブを回させた。
パァー
一瞬にして光の眩しさに目が焼けた。
真っ白で周りが見えない。
「天宮、乗れ」
ふらついたわたしを有無を言わせずに二の腕を掴み体を放り投げる。
ドサッ。
何かにぶつかってそしてすぐにドアが閉まる音がした。
手探りでドアを開けようとしたら。
「…ドアが開かない」
「無駄だよ。開かない」
目が慣れてきて見渡すと、放り投げられたのはワゴン車の後部座席だった。
若佐先生が黒い紐を持ちわたしの手首を後ろ手に縛りあげる。
「やだ、どうして」
「恨むなら榊を恨め」