『若恋』榊の恋【完】
「天宮、少し待ってろよ」
カバンと服の切れ端、シュシュを持って先生は車から降りていった。
―――逃げなきゃ
なんとか体を起こして自由にならない手でドアに手をかけた。
開かない。
ロックされていた。
開けて逃げなきゃ。
スモークの掛かった窓を下げようとしたけど開かない。
そうこうしているうちに先生が戻ってきた。
「榊の慌てる顔が目に浮かぶ」
高笑いをして運転席に座って振り向いた。
「車で待ってるヤツが榊にどんな報告をするのか楽しみだな」
車を出して病院の敷地を抜ける時に、車で待ってるといった拓也さんが見えた。
拓也さん!
スモークの掛かった窓を叩いて、気づいてと叫んだけれど、気づいてくれることはなかった。
車はどんどん病院から離れていく。