『若恋』榊の恋【完】
先生の運転する車は見知らぬ街の中を通り過ぎていく。
緑が濃くなり家がまばらになってきたところで車は停まった。
「天宮、降りろ」
もたつく足で降り立ったところは元はどこかの別荘のようだった。
今は荒れ果てログハウスの窓が一枚割れている。
土台には緑の苔が付いていた。
敷地内の木々は手入れもされていない。
「榊を呼び出すにはうってつけの場所だろう?」
榊の最期の場所に相応しい。
口角を上げて笑み、壊れて鍵のかからなくなったドアを足で蹴り飛ばした。
「入れよ」
背中を押されて転がるように中へ入る。
「ここならいくら叫んでも助けはこない」
口に貼られたテープを勢いよく剥がされて痛みで涙が出た。
「叫びたいならどうぞ」
高圧的な態度で先生がわたしの顔を可笑しそうに覗きこんだ。