『若恋』榊の恋【完】
ひかるを無傷で救い出すためなら、ここで封印を切ってしまっても組長は許してくれるだろう。
「若、行ってきます」
「ああ。気をつけてな。ひかるを頼むぞ」
「はい」
ひかるの服の端をポケットに入れ、カバンを持ち進む。
病院を出ようとして立ち止まり振り返った。
「榊さん!」
いつのまにか松葉杖をついた一也がそこに立っていた。
「一也、行ってきます」
静かに告げると一也が目を丸くした。
「榊さん、何かあったんですか?」
一也には何も知らせてないのに不安気に眉をひそめる。
「ひかるちゃんが、」
「よせ。拓也」
「でも」
拓也はいい募ろうとして若の鋭い視線を受けて黙った。
「榊、行ってこい」
「はい」
戸惑う一也を置いて前を向いて歩き出す。
―――ひかる。
待っててください。
必ず迎えにいきます。
ポケットに入れたひかるの服の端を握りしめた。