『若恋』榊の恋【完】
ひかるの切ない声は若佐の心を確実に捉えていて、僅かに顔を歪めた。
「俺は引き返さない」
「先生、」
「引き返さない。引き返せないんだ!」
半歩近寄ったひかるの腕を無理矢理引き寄せて若佐が怒鳴った。
「ひかる!」
背に庇ったはずのひかるを簡単に奪い返された。
「榊、返して欲しければ俺を切ればいい」
「榊さん!」
「ひかる!」
ひかるを引き摺り移動してテーブルの上の黒塗りの鞘を掴んだ。
「俺に勝てるものならな」
ドン
床に鞘で突き、次の瞬間には鍔に手を掛けて抜き払っていた。
銀色の光が溢れた。
光の先にはひかるがいる。
「先生…」
喉元に触れそうな銀色の光に勝手に足が前に出た。
「おっと、それ以上は来るな」
「ひかるを離してください」
「近寄ると天宮の顔が切れる」
わざと自分を怒らせたいのがわかる。