『若恋』榊の恋【完】
腕の中にいたひかるは若佐に手を伸ばそうとする。
若佐が肩越しに振り返り苦しげに微笑んだ。
「ごめんな、天宮」
「先生、どこに行くの?行っちゃダメだよ」
「ひかる。追ったらいけません」
フラリ。歩き出す若佐の後をひかるが腕の中から抜け出して追おうとするのを二の腕を掴んで止めた。
「だって先生が行っちゃうよ」
「彼には行かなければならないところがあるんです」
若佐が行かなければならないところ。
やり直しができないと思い詰め、旅立つことを決めた者が辿る道。
引き留めたはずなのにひかるの腕から流れ出た血で滑りスルリと抜け出していく。
「待って先生!」
「ひかる、追うことは罪です」
「だけど、」
「追ってどうなるんです?」
厳しい声でひかるを制すと揺らいだ瞳で振り向いた。