『若恋』榊の恋【完】
「やり直しができないことなんてないの。先生はこれから生きていくんだから。」
「それが苦しみにしかならなくてもですか?」
「うん。たとえ、それが苦しみでも」
ひかるが自分を振り切り若佐の背中を追う。
若佐の行こうとする先をひかるも知っている。
わかっているから止めようとしている。
「先生!」
壊れた扉を開け放して緑の葉の生い茂る中へと身を躍らせた。
「ダメ!行ったらダメ!」
若佐の前に回り込みすがるように胸を押さえて、その先に進ませないように立った。
「この先には行かせないから!」
「そうですね。この先には行かせられません」
ひかるが若佐を止めるなら、それでもいいと思えた。
ひかるが自分の前に庇って現れた時にまともに斬られてもおかしくはないはずだった。
寸でのところで、飛び込んできたひかるを守った若佐には人の心が残っていたから。