『若恋』榊の恋【完】
「…天宮、どきなさい」
「いや!」
「俺はこのままいなくなった方がいいんだよ」
「いや!」
「引き留めるな。もう俺のことは忘れた方がいい」
ひかるの腕を掴み、持っていたハンカチを広げて覆うとそっと結んだ。
「傷痕が残るかもな」
若佐が低い声で言いひかるの頭を撫でた。
「悪かったな…」
「先生…行かないで。行っちゃダメ」
「………」
答えない若佐の胸を叩く。
「答えて、先生」
「………」
「答えて。」
「………」
「お願い、先生!」
ひかるの横顔から大きな涙の粒が落ちた。
「若佐、」
「榊、」
若佐が首を巡らせて自分を見てひかるの体を押した。
押されて柔らかい体が腕の中に収まり身動ぎする。
「生きて…生きてください。あなたが死ねばひかるの心に一生残る傷を負ってしまう」