『若恋』榊の恋【完】
りおさんの視線を感じたが、足元の本を拾いテーブルに置き、若の待つ中庭へ歩む。
中庭では夏の空を見上げた若がいた。
「若、りおさんとは」
なんでもないんですよと、いいかけて、
「榊が泣ける場所があってよかったな」
唐突に言って、肩越しに振り返った。
「…見られてたんですね」
「ああ、」
「…ずっと昔の話です」
「でも榊の中では昔の話じゃなかったろ」
「そう、ですね」
だけど今までとは違うとはっきりわかる。
誰が許してくれなくても許してくれると言ってくれたひとがひとりいる。
それだけで十分だ。
「俺も榊が許されていいと思ってる」
「…はい」
「自分を責めて何になる?りおが許すって言ってるんだ。そう受け取ってやれ」
「………」
「榊、お前りおが好きか?」