『若恋』榊の恋【完】
「榊さんは函館詳しいみたいだけど、来たことあるのね?」
「若と何度か来てました。仕事ですけどね」
「ひかるは初めてなのよね。そうだわ。車を貸してあげるから明日はふたりで好きなとこを見て回りなさいな」
「え?いいの?お母さん!」
「いいに決まってるじゃない。気をつけてね」
「お言葉に甘えて、それじゃあ明日車をお借りします」
お義母さんの申し出を有り難く受け取り鍵を預かる。
「ひかる。あなたは榊さんに迷惑掛けないようにしなさい」
ひかるの額を指で小突き笑う。
「さすがにこちらでは拐われることもないかと思いますよ」
「それもそうね」
穏やかに笑う時間もあっという間に過ぎて夜が更けていった。
―――明日はひかると函館市内を巡る。