『若恋』榊の恋【完】
「……どこへ」
拐われたとは思えない。
誰にもつけられたりしていない。
向こうから函館まで来たのも屋敷にいる者しか知らない。
少なくとも龍神会や大神物産関係じゃない。
「……いったい何が」
胸を掻きむしる。
息ができない。
「あの、大丈夫ですか?」
ぐらりと揺れた体をさっきの女性が傍らで支えてくれた。
「あなたはさっきの、」
長い髪を垂らし、背の高い女性が腕を伸ばして支えてくれている。
「どうかしたんですか?」
心配そうに覗き込む目からわざと視線を外した。
すみません。大丈夫です。
支えてくれた腕から滑らし外す。
「もしかしてさっき捜してた女性は、」
「ええ。わたしの恋人です」