『若恋』榊の恋【完】
この空間からひかるの姿が消えた。
二度と離さないと誓い常に傍にいたのに。
「恋人?恋人がいなくなったの?」
「……それは、まだわかりません」
ひかるが自分からいなくなったとは思えない。
なのに、拐われた痕跡もない。
「あ、この車、あなたの?」
彼女は後ろにある車を指差した。
「違います。その車はお借りしてきたものです」
「もしかしてあなたの名前は榊原さん?」
彼女は困惑気味に小声で問うた。
「榊原ではありませんが、似た名前です」
彼女が動揺して目を泳がせた。
「彼女、もしかして」
「もしかして?」
「まさか、間違えられて」
「?」
「わたしと間違えられて」
「?」
風に靡く髪を耳に掛けながら、むうっと唸り黙り込んだ。