『若恋』榊の恋【完】
瓜二つ〜間違えられた花嫁〜
車に戻ると、榊さんの様子がおかしかった。
さっきまで穏やかに話していたのに、無言でハンドルを握り運転しはじめる。
「榊さん?」
「黙ってついてくればわかる」
「え?」
確かに顔や声が榊さんなのに、態度はまるで別人だ。にこりともしない。
何か機嫌でも悪くさせたのかと頭の中で函館山での会話を思い返してみたけれど、思い当たるふしはなかった。
「あの、榊さん?」
「………」
ジロリと横目で見られて無言の圧力を感じてもうそれ以上何も言えなくなって俯いた。
榊さんも何も言わずにハンドルを切り荒い運転で市街地へと降りていく。
しばらく走って、
「着いたぞ」
見知らぬ屋敷前で停まり、榊さんが先に降りてドアを閉めた。
「何してる?降りないのか?」
「え?」
「早く降りろ」
「あ、」
わけがわからないまま榊さんを追いかけ慌てて降りた。