『若恋』榊の恋【完】
「―――榊さん?」
榊さんがそんなことを言うはずがない。
何がなんだかわからない。
「……榊さん?」
手を伸ばそうとして、けれどどうしていいのかわからずに指を引っ込めた。
何かが違う。
何かが違うと心が叫んでいる。
ギュッと手を握り締めた。
目の前にいる熊が口髭に手を当ててわたしを見てなにやら考えていたけど、しばらくして口を開いた。
「榊原、おまえ間違ったな?」
「いや、俺はおまえに言われた通りにしただけだし。間違ったななんて言われても困る。現にその女は俺が車を停めて待ってたら乗り込んできたぞ」
「!?」
その通りだけど。
だけど、……。
「ううん。違う……わたしの知ってる榊さんじゃない」
顔は榊さんと同じなのにまるで違う。
どうしよう。
―――このひとは榊さんじゃない