『若恋』榊の恋【完】
榊さんじゃない。
わたしが知ってる榊さんじゃない。
どうしよう。
「参ったな」
熊のような大男がその大きな手のひらでガシガシとわたしの頭を掻き回した。
「あんたを間違って拐ってきちまったらしい。俺の名前は元太。あんたの名前は?」
わたしが途方に暮れて泣きそうになってるのを宥めるように話しかける。
「……天宮ひかる、です」
涙が込み上げてきてもう少しで落ちそうで必死に堪える。
そうでもしないと声を上げて泣いちゃいそうだから。
「なんで榊原の車に乗ったんだ?」
「わたし…榊さんとドライブで来てて…」
「榊?榊原のことか?」
元太さんがちらりと榊原を横目で見て首を傾げた。
わたしも首を横に振る。
「悪りぃな。話がよくわからねえ」
弱り顔で呟く元太さんが頭を掻いた。