『若恋』榊の恋【完】
「榊原の車になんで乗ったんだ?」
「それは、わたしの恋人と間違えて…」
「そんなに似てるのか?名前まで?」
こくん。
頷いた。
泣きたいのを我慢して立ち上がる。
とにかく榊さんの元に戻らなくっちゃ。
函館山で待ってる榊さんの元へ。
「まあ、座れよ。落ち着けって」
「でも……」
気持ちが焦って座ってなどいられない。
榊さんの元に早く戻らないと。
きっと今ごろは心配して探し回ってるに違いないから。
「こっちも確かめずに連れて来ちまったからな。送ってってやるからよ」
「……本当に?」
「ああ、悪かったよ」
送ってってくれるって元太さんが約束してくれてとりあえずソファーに腰を下ろした。
「元太さん、電話が入ってますが」
「今、忙しいから。後にしろ」
「親父さんからなんです」
受話器を片手に持ってすまなそうに頭を下げた男から受け取った。