『若恋』榊の恋【完】
「お願い通して。元太さんに会いに来ただけなの。危害を加えたり決してしないから」
ふたりが戸惑い動きを止めると彼女は頭を下げた。
「それは―――」
「お願い」
必死の頼みは彼らふたりを黙らせる。
「お願い通して」
「悪いようにはしません」
これ以上邪魔をするというのなら容赦しないと目で告げる。
「誰にも邪魔はさせません」
「……」
彼らは無言で脇に寄り、道をさりげなく開けてくれた。
彼女を後ろにしてふたりの間を抜けて屋敷内へ足を踏み入れる。
ホールを抜けると、若衆がふたり奥を守るように両膝に握りこぶしを置き正座していた。
「ここから先はご遠慮ください」
静かな声音で行く手を阻まれた。
「どうしても元太さんに会いたいんです」
「申し訳ありませんが、親父さんより誰も通すなと言われておりますので」
顔も上げず顔色ひとつ変えずに両脇に控えた男が拒絶を吐いた。
「どうした?騒がしいな」
「あ、榊原さん。」