『若恋』榊の恋【完】
榊原と呼ばれた男が屋敷の奥からゆっくりと近づいてくる。
足がすらりと伸び、隙がない歩き方をしている。
「―――あ!」
彼女が声を上げた。
同時に自分の目を疑う。
目の前にいるのは鏡に映った自分そのままの姿だった。
似てるなんてものではない。
うりふたつだ。
この世の中に自分と同じ顔が3人はいると聞くが、その3人の中のひとりに違いない。
「こんなに似てるんなら確かに間違いもするわな」
「!!」
「なるほどなあ…同じ顔がふたつこりゃあ面白いじゃねぇか」
声まで似ている。
自分よりも若干低いが。
顔も上げずにいた番兵ふたりも榊原の声で初めて顔を上げて絶句した。
「榊原さんがふたり…」
榊原を見つめ、そして自分を穴が空くほど凝視する。
「あんたが榊か」
「あなたが榊原ですね」
お互いを見つめ探りあう。
ひかるが知らずに彼の迎えの車に乗り込んだとしても、誤解が解けた時に彼女を送り返してもいいはずだ。