『若恋』榊の恋【完】
それをしなかった榊原には正直腹が立つ。
人を小バカにしている視線が刺さる。
「彼女は奥ですか?」
「ああ、奥にいる。事情があってもう少しいてもらわないと困るんでね」
ちら。
榊原はタバコを取り出して口にくわえ口の端を上げて笑った。
「彼女はわたしのものです。返してもらいます」
「そんなことはわかってるさ。別に取って喰おうってわけじゃない。そんなおっかねぇ顔をしなさんな」
自分と同じ顔で自分のしない表情を作る。
それは嫌悪でしかない。
「…元太は?元太いるんでしょ?」
「ああ、あんたが元太が迎えに行けと言った娘だな」
居たのかぐらいに興味なさげに彼女を横目で見た。
「悪いが親父どのが帰るまでは騒いでもらっては困るんだ。今は大事な話の最中なんでね」
「見合いの話でしょう?」
「わかってんならもう少し大人しく待っててほしいんだがな」
榊原は正座してるふたりの間を抜け悠然と前に立った。
「彼女を身代わりにしてるんですね」
「ふっ。今だけ恋人のフリをしてもらってるだけだよ。すぐに返す」