『若恋』榊の恋【完】
ヤクザの抗争事件に巻き込まれてケガをした彼女を若がどんなに献身的に面倒を見ていたのか、若の周りに居る者なら知っている。
すべての女を切り捨てて、自ら学校の送り迎えをし、常に護衛をつけている。
暗黙の了解で、
誰もが彼女には指一本触れない。
誰もがやさしい彼女を気に入っても、若の大事なひとだと思えば手を出さない。
たぶん…自分ひとり。
ガンッ
下段から巻き上げられるようにして竹刀が宙を飛んで、数メートル離れた地植の花の中に突き刺さった。
竹刀を握っていたはずの腕が痺れて、押さえたまま若を見上げる。
「榊、」
「…若、冗談ですよ」
竹刀が弾かれて自分の手の中から消えている。