『若恋』榊の恋【完】
「榊、逃げるな」
「ホントは若をからかっただけです」
「なんで逃げる。逃げるな。認めてやれ!なんで最後に俺に打ち込んでこなかった!」
若に叫んだ、その時に、りおさんの見せた表情がすべてを物語っていた。
若を打ち取れるところで彼女が見せたのは。
りおさんが見ていたのは。
―――わたしじゃなく若を見ていたんですよ。
「榊、待て」
花に突き刺さった竹刀を拾うとそれを握りしめる。
ふたりの気持ちがお互いにあることを敏感に悟ってしまったから。
逃げるんじゃない。困らせてはいけない。
「榊、ホントに冗談じゃねえぞ。待て」
竹刀を握った手に力が入った。