『若恋』榊の恋【完】
苦笑いで親父が後ろの榊原を振り返ると素知らぬフリして聞き流した。
「ひかる、行きましょうか」
背を包み車に乗り込むと窓からひかるが頭を下げた。
「ごめんなさい。元はと言えばわたしが間違っていろいろと迷惑かけてしまったのに……榊原さん病院に行ってくださいね」
「このくらいの怪我…」
榊原が言いかけて途中でやめて。
「気が向いたらな」
スッと視線を背けた。
「組長さん、ありがとうございました。騒がせてごめんなさい」
ペコリとまたひとつ。
「たまにはいいだろ。こんなことがあっても。またな」
「ありがとう」
夜も更けて暗くなった中、車を発進させた。
「ごめんなさい、ありがとう」
ひかるが窓から顔を出して手を振った。
「……ありがとう」
屋敷を離れしばらく走ると光るネオンの波が見えてきた。