『若恋』榊の恋【完】
異変
元太や榊原がいた屋敷から戻ってくる途中で、若から連絡が入った。
若が他人を介さないで直接電話を掛けてくることは珍しい。
「何かありましたか?」
思わず出た声音にひかるも心配そうに見つめている。
「お義兄さん?」
「ええ」
ただならぬ気配が電話口からする。
何かが起こったらしい。
電話の向こうで若が慌てている。
「どうかしたんですか?」
若の身に何が。
「落ち着いてください」
電話で話が遠くてよくわからない。
ただ若がひとりでりおさんの名前を連呼している。
「若!」
「おねえちゃんに何かあったの?」
りおさんの出産はもう少し先のはずだ。
お腹の御子に何かがあったのかもしれない。
「若、落ち着いてください!」
思わず叫んでいた。
向こうで息を詰める気配がした。
「若、仁は傍にいますか?」
若では話しにならない。
冷静に話ができる仁か毅がいてくれれば。