『若恋』榊の恋【完】
「榊がうちに来てから何年になるんだ?」
ミラー越しにじっと若が様子を窺っている。
「十年でしょうか」
「そうか、もうそんなになるのか」
「ですね」
食べては吐き。
眠ったかと思えば悪夢に魘されて起きる。
血で汚れた手を何度でも洗い流し、夜中でも蛇口を捻りっぱなしだった。
皮膚を掻きむしり顔も体も血だらけで自分から逃げていた。
罪の重さに負けて何度も車道に飛び出しては罵声を浴びせられた。
あの頃の地獄を受け入れられるようになったのは、若の父親である大神組長がここに連れてきてくれたからだ。
「あまり寝てないんだろう?今日は早めに切り上げるぞ」
「わかりました」
「榊、俺を大事にするな。自分を大事にしろ」