『若恋』榊の恋【完】
あのふたりの幸せをひかるが作ったのかもしれなかった。
榊原を見送り、ふと離れの庭の隅でちらちらと何かが動いた。
なんだろう?
足が勝手に前に進む。
近づくと作業着を着て旅館の方を頻りに首を伸ばして窺っている。
深く帽子を被ったその姿はどうみても怪しい。
「……なにか、」
声を掛けると肩を揺らして振り向いた。
「わかさ?」
その振り向いた顔には見覚えがあった。
ひかるに睡眠薬を飲ませた時の高圧的な態度や、
復讐するためにひかるに刃物を突きつけて目をギラギラさせ痩せこけた姿はもうそこにはなかった。
あるのは立ち直って立派に働いてるであろうその姿だった。
「―――榊、」
声を掛けたのが自分だと知れると緊張が解けたのか深く被っていた帽子を脱いだ。
「結婚するんだってな」
「ええ」
「祝いのひとつにと、」