『若恋』榊の恋【完】
懐から取り出したのはきれいに包装された小さな箱だ。
「わたしからじゃない方がひかるは喜びます」
「俺に……天宮に会えと?」
「ええ、元気で暮らしてる姿を見れば。その方が喜びます」
若佐が戸惑い下を向いた。
「会って直接手渡してやってください。その方が喜びます」
「………」
「もうすぐあの離れの縁を歩くので、ひかるに手渡してやってください」
「いや、俺は、」
「いつかきっと立ち直って会いにきてくれると待ってるんです」
「………」
若佐の瞳が揺らいだ。
ひかるの姿を見たいに決まってる。
特別な教え子だ。
学校を去っても、刃物を突き付けられても信じてくれた生徒だ。
「会ってやってください。ひかるが待ってる」
「………」
「お願いです」
会うのを躊躇う若佐を、ここまで来てくれた若佐をひかるに会わせてやりたかった。