『若恋』榊の恋【完】
若はこの屋敷に来る以前のことを全く聞かない。
知ろうと思わないだけなのかと最初は思ったが、それは若の優しさなんだとしばらく暮らして知った。
自分の過去には人には言えない闇がある。
抉られれば血を吹き出す。
傷口は完全に塞がったかのように見えて時折悪夢に魘されて傷口が開く。
「5時には会議が終わる。どこにも寄らなくていいからそのまま屋敷に戻る」
「わかりました。夕食はどうしますか?」
「いらねえ。家で食う」
「わかりました」
落ち着いてきたのがわかったのか、ミラーから若の視線が消えた。
「若、」
「ん?」
「若は自分の運命を呪ったことはありますか?」
「…なんだ突然」
「ありますか?」
「…ないと言えば嘘になるな。かと言っていつまでもそう思ったりはしねえな」
「………」
「女は向こうから寄ってくるし不自由もねえ」