『若恋』榊の恋【完】
若に背中を押されて診察室を出る。
成田が深刻な顔で患者に向かい自分たちが診察室を出ていく時にも振り向かなかった。それほどひかるちゃんが危ないってことだ。
「成田は腕のいい医者だ。なんとかしてくれる」
ひかるちゃんが生きるか死ぬか。
若は大丈夫だと言ってくれるが体の底から沸き上がる黒い不安は消えない。
「目を覚ましたら榊はひかるちゃんの側についててやれ」
「…いえ、わたしは」
「榊、おまえが今どんな顔をしてるのかわかって言ってるのか?」
語気を強くした若が肩をグッと掴んだ。
「そんな顔してるのにここから出せるはずないだろ!」
珍しく怒っている。
「自分の顔を鏡で見てみろ、榊」
「………」
「榊さん、本当に真っ青ですよ」
前広も心配して覗き込む。
どうしていいのかわからない。
若がそばに着いててやれと言ってもついていられる自信がない。