『若恋』榊の恋【完】
いつだってりおさんの顔が重なっていた。
遊園地に連れて行った時にも何度もひかるちゃんと呼ばず、りおさんと呼んで間違えた。
間違える度にひかるちゃんは黙って笑っていたが、身代わりの恋遊びをしてる自分を寂しく思っていたのかもしれない。
付き合って日が経つにつれ、ふたりが重ならなくなってきたら、今日の誘拐だ。
ひかるちゃんの携帯で男が出た衝撃は、今も自分の心臓の奥深くに刺さってる。
「ひかるの具合はどうだ?」
音もさせずに部屋に入ってきたのは、若がりおさんのところに戻るまで護衛にいた仁だ。
「もう落ち着きましたよ」
薄闇でため息をつき、隣の椅子に腰かけた。
「そうか。よかった」
ひかるちゃんを覗く仁の瞳は柔らかい。
「…ひかるがお前に告白したんだってな。断られなくて良かったって喜んでたんだが…。まあ、俺としちゃ複雑なんだがな」