『若恋』榊の恋【完】
「それは屁理屈よ。榊さんは逃げてるだけみたい」
グッと力を入れて掴んだカップの欠片でりおさんが指を切った。
「い、た」
思わず引いた指を取り傷口を確かめる。
深くはないが指から血が滴り落ちた。
思わず口に指を運び舐めた。
「?」
固まったりおさんの表情を見て、りおさんにはこんなことをしたことがなかったのに、逆にりおさんにひかるちゃんを重ねて指を舐めたことに気づいた。
「すみません、りおさん」
慌てて離し、
「後はわたしが拾いますので」
と、背中を向けた。
「榊さん、何に怯えてるの?」
「…何も」
「いつもの榊さんらしくないわ。ひかるが嫌いじゃないくせに」
「ええ、嫌いじゃないですよ。好きです」
「だったらなんで」
「わたしといると狙われます」
「?」
りおさんは怪訝な顔をしていた。
「大事なひとを巻き込みたくないんです。離れたほうがひかるちゃんのためです」