透明な風のおと
今日もあの子はそこにいた。
話しかけようか…。
また少し迷って栗の木を見上げる。
「!」
びっくりした。
この一ヶ月遠くを見ていたあの子がこっちを見ている。
完全に目が合ってしまった。
ふわりと彼女が笑う。
僕は急にドキドキしてしまった。
「ねえ、貴方私が見えるのね?」
かわいい声。
それ以上に話しかけられたことに驚き、たじろいでしまった。
僕はびっくりとドキドキのせいでうなづくことしか出来ない。
僕がうなづいたのを見て彼女はさらに話しかけてきた。
「すごいね。誰も私のこと気付かなかったのに」
すごい?僕が?
そんなこと言われたの初めてだ。
「本当に誰も君に気付かなかったの?」
思いきって話しかけた。
「うん、誰も」
彼女は悲しげに微笑んだ。
その表情を見て僕は小5のときのことを思い出していた。
積極的にいじめられたわけじゃない。
けど僕は空気だった。
僕はクラス中の誰からも話しかけられずいない人、として扱われた。
きっかけは些細なものだ。
クラス対抗リレーで僕がこけてしまい、ビリになった。
クラスのみんなは何も言わなかったが(むしろ慰めてくれた友達もいた)先生に責められた。
ホームルームですごく怒られ、教室の一番後ろに立たされた。
ころんで一番悔しかったのは僕だ。
でも一番怒っていたのは先生。
次の日から僕はクラス中から無視されいないことになった。
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