七色ライラック




リボンが曲がっているのを見られて恥ずかしいとか、そんなことはすっかり忘れていた。

自然と俯いてしまった顔は、きっと誰から見ても真っ赤だろう。


視線が外れたのを合図にしたかのように生まれた沈黙。

ざわざわと辺りの音だけが耳に入ってくる。


お互いに口を開くことはない。




(何か、話さなくちゃ)




同じ空間を過ごせる時間は限られてるのに。

また、こんなふうに向き合えるのはいつかわからないのに。


そう焦れば焦るほど言葉は口から出てきてくれなくて。

唇を開いては閉じ開いては閉じという動きを繰り返していた私はさぞかし挙動不審だったであろう。


それでも出てこない言葉に泣きそうだ。


気付けば降りなくちゃいけない駅まであと二駅。




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