七色ライラック
ドキドキと心臓の音が聞こえてしまいそうなくらいの、距離。
周りの音なんか聞こえなくて、まるで二人だけの世界みたい。
目の前で顔を真っ赤にして俯く彼女に、このままさよならと手を振るのは嫌で。
離れるのは嫌で。
気付いたらその手を取って走り出していた。
何処に行くとか、何をするとか。学校のことも、彼女の表情も。
そんなの、何も考えていなかった。
ただ本能のままに走る。
その足が止まったのは、駅から少し離れた人気のない公園に入ってからのこと。
「あ、あの…!」
息を切らしながら問い掛ける彼女の声にハッと我に返った俺。
振り返れば困ったように眉を八の字に下げる彼女がいて。
ようやく自分が何をしているのか把握する。