七色ライラック
そしてそっと戸惑うように彼女の細い指が宝箱に触れる。
「昨日のお礼に、と思って」
クッキーの、と言葉を添えれば更に驚いたように彼女の瞳が大きく開いた。
そんな彼女の手をとって、箱を手のひらの上に乗せる。
電車を降りたときとは違い、今度は自分の意志で触れた彼女の手。
柔らかなその感触が直に脳を麻痺させるようで。くらくらする。
彼女は驚きながらもそっと手のひらに乗ったそれを両手に包んだ。
「よかったら、貰ってほしいんだ、けど」
昨日の帰り道、たまたま通りかかった雑貨屋で見つけたこれ。
ガラス越しに見た瞬間、頭に浮かんだのは彼女の姿だった。
彼女のイメージのままだと思ったんだ。
透明で、でも色鮮やかで。