七色ライラック
一歩だけ彼のもとへ踏み出してみようと思ったときだった。
(…あ…)
見えたのは彼と同じ制服を着た男の人と、彼を取り囲む数人の女の人。
むせかえるほどの香水の匂いに思わず足を止める。
「ねーカナぁ。最近サク女の女につきまとわれてるって本当ぉ?」
一人の女の人が彼の腕にその細い腕を絡ませて話しかける。
甘えたような声で"カナ"と呼ばれているのは、間違いなく恋い焦がれている彼で。
(サク女って…私…?)
彼が私以外のサク女生と知り合いってことは多分ないと思う。
もし知り合いがいたなら私の生徒手帳はその人に渡すだろうし。
学校に来たときも、そんな素振りはなかったし。
ということは、やっぱり話しているのは私のことだろうか。