七色ライラック




やけに慌てた様子で俺の腕を掴んだ雪によってだった。




「んだよ、突然」


「奏芽、あれ!」




さっきまで我関せずを決め込んでいた雪が、珍しく動揺したように声を出しドアを指差す。


不思議に思ってその方向に顔を向ければ、人混みの隙間から見えたのは電車を降りようとする彼女の姿。

僅かに見えたその横顔は今にも泣き出しそうで。




(え…?)




何で、彼女がこの電車に?


突然のことに驚きながらも、体は反射的に手を伸ばす。


しかし



プシュー



綺麗な音をたてて閉まるドアにその距離を阻まれた。

固い扉が世界を隔てる。


ドアの向こう側に見える走り去る彼女の後ろ姿。


一瞬で頭の中が真っ白になった。

一体何が起きたのかよくわからない。




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