七色ライラック
今まで一度だってこの時間の電車で彼女を見たことはなかった。
なのに、なんで。
何で今日に限って乗ってたんだ?
今日じゃなかったら、俺にとってこれほどにない幸せな日になったはず。
それなのに、よりによって今日。
(って…違うだろ)
悪いのは彼女じゃない。
悪いのはあんな会話をさせた、俺。
何も言わなかった俺。
あの会話を彼女は聞いていたんだろうか。
いや、多分聞いていた。
泣きそうな顔をしてたし。俺に声をかけてくることもなかった。
気付かなかっただけかも、なんて都合のいいことは考えられない。
だって、彼女の最寄り駅は俺よりも後のはず。
俺より先に、あの駅なんかで降りるわけないんだ。
「最、悪だ…」