七色ライラック
それからはいろんなところが気になるようになって。
私よりずっと低い声も、大きな手も少し眉を寄せて笑う顔も。
「全部、好きなんだもん」
そう小さく呟いた言葉は人の波にさらわれて。
亜実ちゃんに届いたかどうかはわからなかったけど。
困ったように吐かれた息の音が聞こえたから、多分届いていたんだと思う。
気が付けばいつの間にか着いていた駅のホーム。
その人波のなかで立ち尽くす私たち。
すると
ドンッ
「わっ」
「ふきゃっ!?」
突然背中にあたった軽い衝撃。
特別痛みを感じたわけではなかったけれど思わず声が出てしまって。
何だったんだろうと後ろを振り返れば、そこには小柄な女の子が額を押さえて立っていた。