七色ライラック
有り得ない話じゃない。あんな人に言われたら断るの怖いもん。
そう思いながら横目で二人の姿を確認する。
そして
「……え…?」
自分が持っていた偏見に気付いた。
『むぅ…痛い』
『ったく…おいで』
そこには赤くなった彼女の額にあの男の人が唇を寄せている姿。
彼女も嬉しそうに笑っている。
それはどう見ても仲の良い恋人同士で。
あの二人は本当に付き合っているんだと、当然のように繋がれた手が物語っていた。
そんな光景に込み上げてくる恥ずかしさ。
私は彼のことを悪く言われるのは嫌なくせに、あの人に対して当たり前みたいに偏見を抱いていたんだ。
そんな自分が恥ずかしくて。
それと同時に彼女が羨ましいと思った。
彼と似た雰囲気の人を見かけた土曜日の午後。