七色ライラック
直感的にそれは俺が求めているものなんだろうと思った。
俺が今求めているもの。
そんなの、彼女のこと以外ない。
「…な、に」
反抗せずに大人しく言葉を発した俺に満足したんだろう。
さっきよりも微かに上にあがった雪の口角。
そして小さく息を吐いてから立ち上がると、ズボンの埃を軽く叩いてからゆっくりと口を開いた。
「…────────────」
その色の薄い唇の動きに俺は目を見開く。
まるでスローモーションのように一言一言が俺の頭のなかに伝わって。
ゴクリと音を鳴らす喉。
雪は俺に小さくその言葉を落とした後、後ろ手に手を振って静かに屋上を出ていった。
その姿がいつもより数段格好良く見えたのは、きっと見間違えじゃない。