七色ライラック
「わた、し…?」
彼女の言葉に呼吸が止まる。
この学校に和泉美桜なんて名前は、私一人しかいない。
目に見えて動揺する私に彼女は言う。
この前と同じ男の人だよ────と。
その言葉にぐらりと視界が揺れた。
脳裏を掠める、あの人の姿。
戸惑う私に彼女はもう一度口を開く。
今度は、とても優しい柔らかな表情で。
「その想い、伝わらないままでいいの?」
その一言に私は慌てて教室を駆け出した。
後ろから聞こえた亜実ちゃんの声に振り向くこともしないまま。
伝わらなくてもいいなんて。見てるだけでいいなんて。
そんなの、嘘だ。
全速力で走った先に見えたのは、恋い焦がれたあの後ろ姿。
青く澄んだ空が広がっていた日曜日のこと。